上野さんと田島君 – ゑひもせす①
「ありがとうございます。いえ、領収書は要りません。
ほら、歩いて。階段上がれますか」
「ううぅ……」
「伊代さん……はもう寝てるか……仕方ないな。ほらちょっと」
「……んー……(なんでこいつが……? たしか長渡さんと喋っ……)……うっ」
「吐かないでくださいよ。ほら部屋のカギ出して」
「(だいじょぶ……ほっといて)」
「……バッグ漁りますよ? いいですね?」
「(やだ……冷血男に私物引っかき回されるとか)」
「……じゃあどうするんですか。廊下にこのまま放置されたいんですか、四月とは言え酔っ払いにはどうかと思う環境ですが」
「(……となり……)」
「そっちは私の部屋じゃありませんか」
「(見られるのはやだけど、見るならいい……。それに、
あんたは私のこと嫌ってるんだから、間違いなんてあるはずないでしょ?)」
「…………」
「わっ、……」
「……乱暴ですみませんね。恨めしそうに見ても何も出ませんよ。ほら、お水」
「ん、」
「じゃあ、私はソファで仮眠してますから」
「(──)」
「何ですか、この手は」
「(知らないベッドに一人で寝させる気か)」
「あなた──、
……誘うんじゃない、私にまでその力を使う気ですか」
「(私にそんな力はないはずだけど。それより、寒い)」
「……っ」
「(早く)」
「……知りませんよ──」
「(あったかい。
すごく、うれしい)」
「ああ──」
「(何か、柔らかいものが首筋に、これは──)」
「私がどれだけ、あなたを思ってきたのかわかっているんですか、知らないでしょう」
「(これは──今までの──男と──同じだ。それは嫌、だ。
かなしい)」
「……ええ。──安心してください。このままでいいから、眠って」
「(さっきから、どんどん、ってうるさいなぁ、何の音だろう……?)」
「お嬢さーん、ひなたちゃーん!! 起きなさーい! いないのー!?」
「……伊代さん、って、ふぁっ!?」
「おはようございます」
「わ、わぁぁぁあ!?」
「──しっ。外に聞こえますよ。
……先に私が出て話します。今なら伊代さん一人ですし、適当にごまかしてあげますから、少ししたらさりげなくドアの影から出て部屋に入りなさい」
「は、はい……(不幸中の幸い……、世話になったのがこいつでよかった)」
「(ガチャ)おはようございます伊代さん。上野さんがどうかしましたか?」
「あら田島君おはよう。いやねぇ、食堂にお父様が来られてるから起こしに来たんだけど、全然起きなくって。昨日あたし早く店じまいしちゃったじゃない? 大事にお預かりしてるお嬢さんにもしものことがあったら、って」
「あぁ、上野さんだったらちょっと出かけてるようですよ。コンビニかどっかじゃないです?」
「まぁ本当?」
「ええ、そんな気配が──あ、帰ってきたみたいです」
「……お、おはようございます」
「あらあらひなたちゃん、どうしたの。まさか朝帰りかなんかじゃないでしょうね?」
「そっ、」
「伊代さん、どてらとスウェットで朝帰りする人がどこの世界にいますか」
「こっ──!!」
「あら本当だ。あなた、年頃のお嬢さんなんだからちょっとは気を遣いなさいよ、もう。
下に上野先生来られてますよ、今日は朝ご飯をご一緒したいって」
「は、はい、わざわざすみません……ありがとうございます」
「田島さんも食べるでしょ。じゃあ早く下りてきてね」
「はい、すぐ行きます」
「…………(とんだ濡れ衣を着せられた……)」
「……何か仰りたいことがあれば、どうぞ?」
「……いえ、お世話おかけしました」
「いいえ、お構いなく」
「……じゃあ私、着替えてから行くんでお先どうぞ……、ってか最近お父さんなんでちょくちょく来るんだろ? この寮、おじいちゃんもいるし何も心配なことはないはずだし……、東京の仕事そんなに増えたのかなぁ……」
「──、ではお先に」