欠食男子と弁当女子
客も閑散としてきた昼休みの購買。俺は握りしめた百円玉三つが温くなっていくのを感じながら、百二十円の牛乳パックを掴み、何度も総菜パンの棚を右から左、左から右へと見回していた。
「わかっちゃいたけど、なぁ」
ぼやきも漏れようというものだ。四限目が終わったぐらいの時間なら、ここには文字通り山になって様々なパンが並び、腹を空かせた生徒たちが次々とそれを崩していくのだが、この時間ではもう数も種類もすっかり少なくなっている。少し担任に言いつけられた雑用をこなしていたらこの有様だ。
地学の資料片付けとか日直にやらせろよなあ、いくらヤツが俺の部活の顧問で他のクラスメイトより付き合いが長いからと言って、ちょっと便利に使いすぎじゃないか?
いや、今はそんなことよりもだ。問題はこの三百円、牛乳代を抜いた百八十円でどうやって腹を満たせるかだ。
総菜パンの棚には少なくなった残りのパンが並んでいる。高い順に行こう。
えびフィレオサンド百八十円。フルーツサンド百六十円。焼きそばパン百五十円。バタークリームサンド八十円。
量を追求すればバタークリームサンド二つだ。しかし経験上、パンだけ詰め込んでも早々に充電が切れ、午後の授業と部活に差し障る。
予算ぎりぎりまで使っていいならえびフィレオサンド、これはエビカツに繊切りキャベツがそれなりの大きさのパンに挟んであり、たんぱく質と一緒にビタミンも摂れる。理想だ。
しかし残金が0円になる。それはいただけない。ああ、今朝ジャンプを買っていなければ。
それならばボリュームも中程の焼きそばパンの方がまだましではないか。三十円の違いだが。
0円と三十円……0円と三十円……0円と三十円──。
ソース色の麺と食紅色の刻み生姜も、この空腹下では立派なご馳走と言えるのではないか?
「……、もう今日は焼きそばパン、キミに決めた!」
決意して伸ばした手は空振った。
「──っは、はあっ、ま、間に合ったぁー」
「お、お前」
紙袋を片手に提げ、もう片方の手で焼きそばパンを奪い取り、肩で息をしている一年の女子は顔見知りだった。部活の後輩である。
「こないだ弁当食ってなかったか? なんで今日は購買なんだよ!?」
断面の渦も見事なタマゴ焼きに、マヨネーズがちょこんと添えられたブロッコリーに、小さなカップの中でくるっと巻かれたナポリタン。三原色が綺麗に揃った弁当箱は鮮やかで、褒めたら自作なのだと照れてタマゴ焼きを一つ恵んでくれた。のでよーく覚えている。
「いいじゃないですか、今日は私焼きそばパンの気分なんです!」
「……仕方ねえ、じゃあえびフィレオ……」
「あっそれも私食べます! あとバタークリームサンドも!」
「お、……お前あとから出てきてなんの嫌がらせだよ! そしたらフルーツサンドしか俺が食うもんなくなるじゃねえか!」
実は甘い物はそんなに苦手でもないが、フルーツサンドに素直に手を伸ばせるほど、柔弱な男子高校生はやってきていないつもりだ。
それに甘い物がイコール食事になるなど、いろいろ邪道だ。スイーツはデザートに食べるからスイートなのであって。できれば紅茶も欲しい。俺が持っているのはパック牛乳だ、生クリームだって突き詰めれば乳だ。乳で乳を流し込むなど。
「ところで先輩」
苦悩していた俺に精算を済ませた後輩が片手の紙袋を掲げて見せた。中から見覚えのある包みが出てくる。
「私、お昼には焼きそばパンとえびフィレオサンドとバタークリームサンド食べようと思うんですけど、そしたら作ってきたお弁当余っちゃうんですよね~。
これ、どうしたらいいと思います?」
食欲をそそるオレンジと黄色のチェックの巾着に彩られた包みは、俺がこの間見かけたそれより一回り大きく。
腹を空かせた男子高校生の目と胃袋を楽しませるにはじゅうぶんのボリュームですよと、確かに自己主張をしていた。