Witch With Wit-*

その背中は世界を背負う

「それでは、近年急速に業績を伸ばしているスポーツジム経営者、クインシー・アンデスさんへのインタビューをお届けします」

 5時のニュースは若き実業家の姿を映し出していた。お話をうかがうのは、これまた新進気鋭のアナウンサーだ。

「アンデスさんは数年前、大学在学中に『誰でもできる! ミルクココアワークアウト』というキャッチコピーのスポーツジム、『ミルクココアステーション』をオープンさせ、今日に至るまでに全米に店舗を展開されてきました」
「恐れ入ります」

 クインシー・アンデスは波打つ金髪をセミロングに整え、いかつい肩幅にオフショルのニットワンピースをまとった人物であった。ブラウンのリップが彫りの深い顔立ちによく似合っている。
 その肉体すべてが、性別を越えた美、的なものをしっかりと醸し出している。

「なんでも、この道へ進まれたきっかけには、とある出会いがあったとか」
「ええ、私を美と筋肉の世界へといざなった、そんな出会いでした」
「今日はまずそのお話からうかがいたく……」

「ええ。私は当時、典型的なナード、そばかす顔に歪んだメガネをかけたそれはそれは絵に描いたようなナードでした……」
「まったく想像ができませんが」
「本当のことです」

 アナウンサーはとても信じられないとばかりに肩をすくめた。クインシーは微笑する。

「それでも、好きなものは好きだと言える、そんな自分でいたいと常々思っていたのです」
「その、好きなものとは」
「ココアですね」

 おおっ、と観客席がざわめいた。

「のちに店名とされておられる。『ミルクココアステーション』」
「ええ。ですが、当時の私は力もなく、卑劣にも愛するココアを悪用した、とある組織の毒牙にかかりそうになり──」
「そんなことが!」

 御婦人がたの黄色い悲鳴がこだました。

「グラニュー党。かつてステイツのニュースを賑わしたこの悪党の名前を、みなさんもご記憶でいらっしゃるかもしれません」
「ええ。あれは私が今の職場に入局した頃のことでした」

 アナウンサーは沈痛そうな顔を作った。

「確か、あらゆる甘い物を悪用して魔手を伸ばしていた悪党。まさか、ミルクココアにも──」
「はい、そのまさかです」

 ふたたびざわめく客席に、しかし、クインシーは力強く笑顔を向けた。

「ですが、とある方が私をからくも救ってくださったのです」
「──ほう! その方とは」
「ご迷惑がかかりますので、具体的なことは申し上げられません。しかし、知る人ぞ知る勇者であり、今日も陰日向に世の平和を守るために戦っておられることと思います」
「おお……」

 観客席ではまばらな拍手が上がった。

「そして、その恩人が、私におっしゃいました。『あんた、そのなりで一丁前に、モテたいとか思ってるんだろ』」
「それは──手厳しい」
「ええ。言い当てられた私は、レッド・ベルベット・ケーキも霞むくらい真っ赤になりました」

 HAHAHAHA。観客席からは笑い声が上がる。

「そして続けて、こうもおっしゃったのです。『あんたには途轍もない才能がある。だけど、その欠落を放っておいちゃ、第二・第三のグラニュー党につけ込まれることになるよ』」
「第二・第三のグラニュー党ですか。背筋が寒くなりますね」
「当時の私には想像も及びませんでしたが、彼らは確かにこの社会にいて、我々の隙を虎視眈々と狙っているのですよ」
「それはたいへんに──ヤバい現実の一面ですね?」

 Oh──観客席はどよめいた。
 そこにクインシーはばちんと、見事なウィンクを送る。

「ですが心配ご無用。私はそこからワークアウトを重ね、独自のメソッドを組み上げました。恩人のアドバイスもあって、今ではフィジカルにおける力──パワー──と、『ミルクココアステーション』という居場所──パワー──を手に入れたのです」

 そう言うと、クインシーは見事な脚を組み替えた。
 今度こそ、観客席からは大きな拍手が上がった。

「素晴らしいお話です。では、次はそのメソッドについてお伺いしていきましょう──」

     *

「おばあちゃん、その番組見てる?」
「ん? ただつけてただけだよ。何か見たかったら、どうぞ」
「ありがと。『チョコパンマン』の時間なんだ!」

 ヨハンナは、たまたま訪れていた少年探偵団の一人にテレビのリモコンを譲り、新しいココアをいれるために椅子を立った。
 小さく、ひとこと残して。

「──仕上がってるじゃないか」