甘き苦み
いろいろあったが、オリヴァー牧師はすっかりティーブレイクタウンの一員になった、と思う。
我が家でも妻が子供向けのプログラムを気に入って、息子を週一回通わせている。
たまたま今日は非番で、僕がそのお迎えを担当することになった。
「先生はね、あなたたちは特別ですって言うんだよ」
手を繋いで歩きながら、息子がしかつめらしくそう言うので、二重の意味で笑ってしまった。
あの人、その思わせぶりな言葉のせいでさんざん僕らにありもしない罪を追及されたのに、まだ言ってるのか。
……まあ、そのぐらいでなければ信念者とは言えないか。
「それでね、キャンディーをくれるんだ」
「そうか、今日ももらった?」
「もらった」
息子は顎を上げてこころなしか得意げだ。
そのキャンディーもあらぬものが混入されていないか、いくつも鑑識に回したのはもはや笑い話である。
「パパはもらった? キャンディー」
冗談じゃない。警官が容疑者からもらってたまるか、そんなもの。
と、とっさに思ったが……。
「いや……」
ふわっと、記憶の中を甘い香りが通り過ぎた気がした。
あれはいつだったか。そう、僕が今の息子と同じぐらいの頃だ……。
兄たちと公園に出かけたはいいが、一人だけ齢の離れた僕は、彼らのハードな鬼ごっこについていけなくて、置いてけぼりになってしまい、慌てて転んで。
擦りむいた膝が傷んで、情けなくて悔しくて、声を上げて泣くのも恥ずかしくて、呆然とその場に座り込んでいた。
公園のはなみずきが花をつけているのすら、僕を笑っているように感じて。
そんなとき、そう、ふわりと甘い香りがしたんだ……。
音もなく現れたその人は、僕を軽々と立たせると、手洗いで傷を洗ってくれて、白いエプロンのポケットからやはり真っ白なハンカチーフを出して、傷の上からしっかりと膝に巻いた。
そして同じポケットから出てきた飴を一粒、僕の口に放り込んだ。
何かを話したはずなのに、それは忘れてしまっていて。
目を合わせた時の瞳の青さを覚えている。
そして、もらったキャンディの味が、香りを裏切って全然甘味のない、大人向けのコーヒー味で。
その人の着ていた真っ黒なお仕着せのようだと思ったんだ。
「……パパももらったよ、キャンディー」
「ほんと? 甘かった?」
僕は息子の手を握ったまま言った。
「うん、甘かったよ」
返事はなかった。
それどころか、グッ、と引っ張られて僕は息子を振り返った。
「デミタス? どうした?」
「……あの人……」
息子の視線の先を追うと、黒と白をまとった女性が、角に向かって歩いていくところだった。
横たわる数十年は、まるで僕にだけ降り積もったかのようで。
何も期待をしていないはずの両目は、しゃんと伸びた背を追いかける。
角に消える刹那。
ちらりとこちらを振り返った春の空色が、僕達を確かにみとめ。
薄い唇の端がかすかに持ち上げられた、僕にはそんな気がした。