小麦色の憧れ
コンババ二次創作 お題「ランドセル」
「じゃあね麦ちゃん!」
「うん、またね桃ちゃん」
技術の進歩とはめざましいものである。そんな陳腐な文句すら浮かんでくるのは、あまりにも少女たちの声が弾んで、笑顔が眩しいからだろう。
大陸と太平洋を超えて今、数奇な星の下に生まれた二人の少女が挨拶を交わしている。方や東海岸のBtoBの片隅のテーブルに置かれているのは、コンホーテンのChromebookだ。
キョウトの少女の家にある端末の名前はわからないが、ディスプレイ越しに今、日本人の少女はなにやら洒落たバッグを手にして通話を切った。
「…………」
ブラックアウトした画面に映る自分の顔を眺めながら、東洋から来た少女はBtoBの店内で沈思した。
「どうしたんだい、ムギ」
コンホーテンは促してやる。子供たちに対しては、どこまでもお節介なのがこのババアの身上ゆえに。
「あっ……おばあちゃん、あのね……」
保護したときには自分から何かを言うことなどしなかったこの少女も、今ではゆっくりながらも思いの丈を表現できるようになってきていた。
「えと……桃ちゃんの、バッグ……かわいいね?」
「ああ。通学カバンだろう? ニホンではエレメンタリースクールで使う、決まった型のカバンがあると聞いたね」
「……ん」
コンホーテンの説明を聞いた麦は、納得したようにうなずいた。が。
瞬いたまぶたにかすかによぎった落胆を見逃すようなババアでは、ないのだ。
そんな話をしたこともすっかり過ぎ去った、その年の夏。
麦はその名前をもらった麦子夫人との対面を果たすため、遠くニホンを訪れていた。
日程の後半は自由時間、とコンホーテンは言い渡してある。
トーカイ地方からシンカンセンで一本、あっという間にそこはキョウト駅である。
「麦ちゃん! 久しぶり!」
大きなエスカレーターが存在感たっぷりに動く構内で、アメリカからの客は色蓮姉妹に迎えられた。
黒塗りの車に乗せられて数十分、初めて見る町並みやびっくりするほど大きなお屋敷、ディスプレイ越しに眺めていたお庭の実際の見事さに圧倒されたあと。
かわいらしい調度で彩られた和室に麦を案内して、桃ちゃんは言ったのだ。
「お布団はこっちね。麦ちゃんお布団大丈夫かなあ……? 駄目だったらベッド入れるから言ってね。この机も、使ってね。……それから、これ! 麦ちゃんのランドセルね!」
「……えっ?」
「あのね、日本の夏休みはまだ始まってないんだよ! だからその前にちょっとだけ、麦ちゃんも学校に行こ? ――えっと、私と一緒に、よかったらだけど……」
「……!」
そのときばかりは、できるようになったニホン語もわからなくなって、麦は桃ちゃんに抱きついた。
シックなランドセルの色は小麦色というのだと、落ち着いた頃に桃ちゃんは教えてくれた。桃色のランドセルと二つ並んで通う明日が、麦はいっとう楽しみになって、その日の残りをだいぶ上の空で過ごしたのだった。