Witch With Wit-*

戦乙女の旅立ち

──バルキリーって、あんな感じなんでしょうか。
 思わずつぶやきを漏らしたら、
──莫迦ね。全然違うわよ。
 そう、返ってきた。

     †

 さて、これは大変だぞ。
 フランチェスカは集まった群衆の数に、一度大きく深呼吸をした。
 いつもは貴紳淑女が優雅に集まるトーナメントの会場だ。
 しかし今日は社交界デビューを果たしたか果たしていないかくらいの子女達に特別に設けられた模擬戦、という趣向である。その客層まで、いつもとは違った。年齢層が、少年少女と言っていいくらいの若さの者とその親ぐらいの二世代に集中しているのだ。加えて、そのなりも『民衆』のまさにそれだった。いつものトーナメントに集まる『着飾った貴紳淑女』の姿はちらほらとあるのみだ。
 この様子じゃ、やっと十一歳になったばかりのフランチェスカと、わずかに年上の連れの少女の体格では、すぐ前に頭だけ見えている金属製の柵の向こうを確かめることができない。
 この前に来たときと一緒なら、少年少女はスポンジケーキに挟まれたクリームのように大人達と柵の間に挟まれているはずだ。小さな子たちの中は親や知り合いの大人に肩車をしてもらっているのもいたが、もう十一歳じゃそんなことは頼めない。
 フランチェスカは隣に立つ連れ、ソフィアの空いている手を取り、ぐっと握りしめた。
 覚悟を決めて、大声を上げる。 
「ごめんなさいっ! 通していただけませんか?」
「ちょっと、何考えてるのよ!?」
 泡を食った声をソフィアが上げるのもお構いなし。親切なおじさんやおばさんがちょっとだけ身動きして、開けてくれた細いすき間に突入する。
 ソフィアは……としっかり握った手の先を見ると、荷物を胸にしっかり抱え直して付いてきてくれていた。よかった。
「あっ、すみません……ふう」
 帽子をかぶった、ソフィアよりちょっとだけ年かさに見えるお兄ちゃんが少し下がってくれて、フランチェスカとソフィアは柵の前に滑り込む。
 綺麗に切りそろえられたはずのソフィアの黒髪はぐちゃぐちゃだ。髪と同じ黒の目が、非難の色を揺らめかせてフランチェスカに据えられた。
「見られそうなら見る、って話だったじゃない」
「ごめんなさい。でもこれで、見られそうじゃないですか?」
 フランチェスカはほどいた手をソフィアに合わせて見せて、後ろの人たちのためにすこし身をかがめる。柵にすがるとぷうんと鉄のにおいがした。
 その向こうに広がるのは土の地面、そして、青空だ。
 よく踏み固められた地面。いつか私もあそこへ、と心がはやる。
 今行われているのは、勝者への、勲章をかたどったリボンの贈呈のようだった。ちょうど一戦が終わったところか。観客から拍手が巻き起こり、慌てて柵から手を離すとフランチェスカもそれに混じった。
 そして、見知った少女の姿を探す──見物客にではなく、柵の向こうに。
 魔法騎士団を擁するこの国、森林王国ラムリアースには、女性の騎士も珍しくない。フランチェスカの今の主もそうだ。
 それは女性のみが就ける、ユニコーンライダーという職があるからでもあったが、フランチェスカの主や友人はそうだというわけではなかった。
 ただ、剣の実力のみで、今日の晴れ舞台に立っている。──はずだ。
「あっ、いました! あそこです。
 よかった、ちゃんと勝ち抜いてる」
「ふぅん、──?」
 ソフィアがしたのは気のなさそうな返事だった。が、視線はしっかりとフランチェスカのさした指の方に投げられている。
 選手たちの控え室から繋がる、通路の出口。そこに数名並んでいる少年達の中。
 ここからでもよく見える、体格に見合わない長大な剣。少女の身の丈に調節されてはいるが、どこかおんぼろな金属鎧。
 家名とか一族の期待とかそういうものを背負って並ぶ少年たちの間にあって、しかしフランチェスカの友人の顔は、誰よりも誇らしげに輝いていた。
──そのわけを、フランチェスカは知っている。

     †

 出会いは二ヶ月前に遡る。
 五百年以上の歴史を誇る魔術師の塔、『賢者の学院』。その裏庭に大理石でできた東屋があった。
 歴史のどの段階で作られたものかはわからないが、それなりに風雨を味わったらしく、角などはすっかり丸みを帯びている。
 今は学生のお昼時。フランチェスカは今日も布包みを抱えてそこを目指す。
 しかし、植え込みが途切れ大理石のベンチが姿を現すと、今日は──
「(あ、先客だ)」
 足が止まる。他の場所を探すかと、きびすを返しそうになって、気づいた。
 知っている顔だ。
 ドレスは生成の、一見して質素なコットンだ。申し訳程度に袖口と襟元にレースが付いている。首までしっかり留めたボタン。
 そう、この人は、確か。
「あら」
 記憶をたどっていたら、向こうもこちらに気づいたようで、おっとりと声を上げる。
「あなた、どこかでお会いしたことがあったかしら?」
 うん、そうだ。
 フランチェスカは軽くお辞儀をして応える。
「えと、コリンズ家の小姓を務めております。フランチェスカと申します。
 当家の午餐会においでになっていたかと」
 相手の瞳が得心の色に染まった。
「そうねぇ、そんなこともあったわね。
 改めまして、わたくしはエステルと申します。どうぞよろしくね、フランチェスカさん」
 エステル=ハルシュトレーム。
 華美なドレスよりも鎧を好み、繊細な羽根扇ではなく無骨な大剣をその手に携える。
 自らも女騎士の座を目指すフランチェスカは、そんな噂を少しの興味と親近感をもって耳にしていた。
 しかし『学院』に籍はなかったはず、と差し出された手を握り返しながら考える。
 皮膚が硬い。鍛えている手だ。
「父の供で参ったんですけれど、ご用がなかなか終わりませんの。こんなことでしたら、エリザベスを連れてくるのでしたわ。このお庭、素振りにちょうどよさそうですものね」
 握手を終え、自分の手は相手にどう感じられただろう、と思っていると、エステルがそんなことを言った。
「えりざべす、さん?」
「ふふ、大好きなお友達ですの」
 エステルはふんわりと笑ってそれだけを答える。
……そういえば変わり者だという噂も聞いていた。所詮噂は噂だが、当たっているかもしれない。
「あなたはどうして、このようなところへ?」
 代わりに訊かれ、フランチェスカは少し躊躇する。
「あ……。
……ご飯をいただくところを探していたのです。私、この『学院』では新米なので」
「お小姓さんが、学院の新米? では、推挙を受けていらしたのね」
「……はい。でも何もかもわからないことばかりで」
 姉のような、ユニコーンライダーを輩出する一族に生まれて、精霊を見る力を持たなかったフランチェスカは、その代わりとして、騎士を目指すべくとある女騎士の小姓になった。
 その勤務態度が認められ、今度は魔法騎士の素養を積むため、魔術師の塔への入門を主が都合してくれたのは今年の春の話である。
 しかし、もともと家庭教師や市井の賢者から基礎教育を受けていた皆とは違って、文字の書き方から学ばなければいけない立場。
 フランチェスカはそんな中で、すっかり同輩の間での立ち位置をなくしていた。
「私には、向いてないんじゃないかなって……」
 そう口に出すと、自然と視線が下がった。
 抱えていた布包みが目に入り、ぎゅっと、それを抱き直す。
 そうしたら、頭に何かが触れる感触があった。
 ぽん、ぽん。
「……?」
 それはエステルの右手だった。
 視線を上げたらこちらを見る目とかち合った。
「ごめんなさいね、失礼だったかしら」
「いえっ、そんなことは!」
 撫でられたのだとやっと気づいて声がすっとんきょうになる。
 でも。
「……でも、エステル様は……」
「エステルで結構ですのよ」
「……エステル……さん、は。
 どうしてそんなに、楽しそうにしていられるんですか?」
「楽しそう?」
 ああ、訊いてしまった。
 こっちのほうが完全に失礼だ。
 だけど一度口に出したからには、続けなければならない。
「はい、今もそうですけど……この前の、模擬試合の時も」
「あら、見ていらしたの?」
「はい……、勉強してこいと主に言われました。
 戦っているのに、楽しそうで。
 それなのに、がさつじゃなくて」
 エステルは笑みを深める。
 だけど真剣に応えてくれようとしているのが、雰囲気からわかる。
「そうね、自分にできることをやっているからではないかしら?」
「自分に……できる、こと?」
「えぇ、私の場合、それが剣を持って戦うことでしたの」
 剣は今はエステルの傍らにはない。
 でも、それでもエステルの表情にいつでも光を与える、そういうものなのだろうか。
「……自分に、できる、こと。
 私にも見つかるでしょうか」
 ユニコーンには認められなかった。
 主のことは尊敬しているし大好きだが、その期待に応えられている自分であるとは到底思えない。
 それでも、そんな私にでもできることがあるのだろうか。
 あったらいい。
 そう思っていいのだろうか。
 エステルはうなずく。
「見つかりますわ。きっとね。……それとね、これは内緒ですけれど」
「内緒、ですか?」
「憧れている方がおりますの。その方に、いつでも胸を張ってお会いできるわたくしでいたいのですわ」
 そう言ったエステルがやわらかくはにかんだので、興味を引かれてフランチェスカは訊いてみる。
「どんな方、なんですか?」
「そうですわね、年はわたくしよりは少し大人だったかしら。今よりずっと小さい頃にお会いしましたの。その頃私は男の子に混じって、恰好も男の子と同じようなものだったのですけれど。それなのに、その方はとても淑女らしい方でしたのよ」
「ああ、それで……」
 エステルが優雅に振る舞う、振る舞おうとしているのか。
……その小さな頃のエステルの気持ちが、ちょうど今のフランチェスカには分かる気がした。
「すっかり話し込んでしまいましたわね。ご飯、こちらで食べていかれてはいかが?」
「あ、はい。そのつもりで……」
 フランチェスカは勧められるままにエステルの対面に座って、やはり大理石でできたテーブルに、抱えていた包みを広げた。
 中は、自分で作って詰めたお弁当だった。
 卵焼きをひとつエステルに分けてあげたら、褒められた。
 そして、別れ際。
「今度の模擬試合も、ぜひ見にいらしてね」
「いいんですか?」
「えぇ、だってお友達ですもの。そうそう、それまでにはエリザベスを紹介いたしますわ」
 どんな人なんだろう、エリザベスさん。
……友達、かぁ。
 久しく聞いていなかった言葉だった。

     †

 太陽は南中をすこし過ぎている。
 約束の二ヶ月後、模擬試合の日。フランチェスカは広場に通じる商店街の下り坂を、息を切らさぬように走り抜ける。
 果物屋から出てきた黒っぽい人影とぶつかりそうになって、慌ててくるっと身を翻す。
「ご! ごめんなさい!」
 相手は取り落としそうになった紙袋を抱え直して、こっちを見た。
 耳の下で綺麗に切りそろえた艶やかな黒髪。少々険のある同じ色の瞳。フランチェスカより少し年かさのその娘は、
「え、ソフィアさん!?
 やっぱり、ソフィアさんだ!」
 瞳はその声に少しの間見開かれて、それから全ての感情を封じたように鎮まった。
「あんた……フランチェスカ」
「はい! ソフィアさんは、お買い物ですか?」
 ソフィアはそれには答えない。
「……あんまり私の周りをうろちょろしないほうがいいわよ。忙しいんでしょ?」
 その言葉には刺がある。
 ソフィアの父はフランチェスカの父と同じく、森林警備隊員であった。その彼が密猟者に殺されたことを、フランチェスカは父から聞いた。
 そして今彼女は病身の母を一人で看ているはずだ。
 ソフィアは事件後、背まで伸ばしていた髪を、ばっさり切り落とした。
 髪と一緒に、あたたかいものややさしいものを振り払うように。
 だからフランチェスカは、ソフィアが身に纏って閉じこもろうとする空気に抗って、声を上げる。
「いえ、今日は午後はおやすみをいただいてきたので!」
「…………」
 そういう意味じゃない、と言いたげにソフィアの眉間に皺が寄る。
 でもフランチェスカはそういう意味で押し通す。
「ソフィアさんは、お変わりないですか?」
 答えには間があった。
「えぇ。変わらないわね、何も」
 そこには何かを嘲るような、否定するような響きが混じっていた。
 それでも答えてくれたのでフランチェスカは嬉しかった。
 そして、思いつく。
「そうだ、ソフィアさん、お時間ありますか!」
「そうね、客が来るわけでもないしね」
「だったら一緒に模擬試合見に行きませんか!」
「模擬試合?」
「はいっ、お友達が出てるんです!」
 ソフィアの眉間はいよいよ険を帯びてきた。
「一人で行けばいいじゃない。私はそんな、人の多い……」
 言葉は尻すぼみだった。フランチェスカはソフィアの背後に回る。
「大丈夫です!
 みんな、選手しか見てませんから!」
 そしてその背中を、ぐっと押して再び坂を駆け下り始めたのだった。
……今から行っても見られそうなら、ね。
 ソフィアがそうつぶやいて、でも背中を押す力には抗わなかった。

     †

「ふぅん……あれがエステルって子?」
「はいっ。で、背中の大剣がエリザベスさんです」
「えりざべす……?」
 ソフィアはフランチェスカが最初にそれを聞いたときと同じ反応をした。
「そうなんです。武器に名前を付けて、丹念に手入れしてるんですって。
 愛着が湧くんだろうなぁ」
「……へぇ」
 毒気が抜かれたような声と表情でソフィアは会場を見渡す。
「……今思い出したんだけど」
「はい?」
「昔の話よ。やたら懐いて来た小さな男の子がいたの。
 もうこれくらいの、この試合に出てるかもしれないくらいの歳になってるわね」
「そうだったんですか。どこかに、いるかもしれませんね」
「そういえば、ってね。ちょっと思い出しただけ。
 ほら、始まるわよ」
 その言葉の通り、フィールドの中央では十メートルほどの間隔を開けて、エステルともう一人の少年が向かい合ったところだった。
 少年の武装は、長槍と軽鎧。
 対するエステルは、既に大剣の鞘を払っていた。
「はじめ!」
 審判の言葉の発された瞬間、先に動いたのは少年の方だった。
 長槍をしっかりと構え、エステルを狙って走り出す。
「チャージ……ですか?」
「そのようね」
 エステルはその場から動かない。ただ、腰を落とす。
 少年は走り抜ける。
 金属と金属がぶつかる音が空気を裂く。
「ああっ!」
 観客から悲鳴と歓声の入り混じった声が上がった。フランチェスカが上げたのは、もちろん前者だ。
「よく見なさい、鎧にうまく逃がしているわ」
 ソフィアは冷静だった。
 少年はエステルを少し過ぎたところで振り向き、構え直す。
 エステルは再び少年に向き合った。
 今度のチャージは距離が短い。
 少年が走り出す。
 ぐっと、エステルが大剣を構える両手に力を入れるのがわかった。
 二人が交錯する。
 予想した金属音はしない。
「……あっ」
 二人の間から何かが飛んで、こちらに飛んできた。
 フランチェスカがよく見ると、それは折れた槍の穂先だった。
 エステルは少年の突進を見極めて、膂力に任せ、大剣で相手の武器を破壊したのだ。
「勝負、あり!」
 審判が大音声を上げ、観客が沸く。
「すごい! エステルさんすごいすごい!」
 フランチェスカは飛び上がって、周囲の見知らぬ人たちと手をぶつけ合った。ソフィアも応じてくれた。一回だけだったけれど。
「ねえ、ソフィアさん。
 バルキリーって、あんな感じなんでしょうか」
 ソフィアには精霊が見える。
 フランチェスカが見たことのない勇気の精霊は、戦乙女とも呼ばれる女性の姿をしているらしい。
「莫迦ね。
 全然違うわよ」
 そう、ソフィアはため息のように返してくれた。
 それはフランチェスカがどんなに求めても叶わない、精霊を見る目を持った者のひとことで。
 だがフランチェスカは思うのだ。悲しいとき、苦しいとき、寂しいとき、ソフィアのそばには必ず精霊がいてくれる。
 だから、いいんだ。

     †

 五年の月日が流れた。
 ソフィアは母を看取って、旅立った。
 どこにいようと、精霊のような友がいればいいと、それだけを願う。
 エステルも武者修行だか、冒険者となって旅立っていった。
 いつかあの憧れの君に再会できれば、と言い残して。
……五年の月日が経ったのだ。
 それでも、フランチェスカは『学院』で魔法を習得することが叶わなかった。
 生まれつきの才能にも左右される世界だ。それだけはどうにもできない。
 しかし、だからこそ、主の執務室へ向かう足取りは重かった。
 呼び出されたのはきっと、今後の身の振り方についてだろうと見当を付けている。
 赤い絨毯の敷かれた廊下を抜ける時間が、いつもよりやたら短く感じられた。主の部屋の重厚な扉を軽くノックし、許可を得て入室する。
「フランチェスカ、参りました」
「ああ。──」
 主である女騎士はそれを告げるのにしばらく、躊躇した。
 お気遣いはそれだけでありがたいです。早く、宣告してください。
 フランチェスカは心中そう念じたが、……切り出されたのはまったく予想とは違う話だった。
「エステル=ハルシュトレーム嬢はお前の友人だったな。
……旅の空で、亡くなられたそうだ」

     †

 空はあの模擬試合の時のようにただ青かった。
 地面にはフランチェスカの知らない人たちの名を彫った石が並んでいた。……それと、生没年と。
 目当ての墓石はすぐに見つかった。
 今はぴかぴかのその石。故人が信仰していたようにか、戦神マイリーの様式で作られている。
 その中央には大剣を象った浮き彫りがあった。
「エリザベスと一緒なら、寂しくありませんよね」
 あの中庭で出会った日と違って、暇もつぶせるし。
 フランチェスカは携えてきた小さな花束をそっと供えた。
 そして、もうひとつ。細長い手荷物を包んだ布をほどいて、墓石によく見えるように、捧げ持つ。
 一本の槍だった。
「紹介します。これが私の相棒です。名前はまだ、決まってませんけど」
 五年の期間の結論としてフランチェスカは、賢者としての籍のみ『学院』に残して、──冒険者として名を上げることを選んだのだ。
「エステルさんのあとを継ぐとか、そういうんじゃないんですけど」
 ただ、気がついたら、その道が心の中にあった。
「これが私のできることなんです」
 やっと見つけたんです。
「きっと、笑ってくれますよね」
 マイリーの信者、特に勇気のあった者は、バルキリーが案内役となって喜びの野の神の御もとに導かれるという。
 しかし、フランチェスカには、それはエステルの道にふさわしいのか、わからなかった。

「ねぇ。
……バルキリーに、なったんでしょうか」

 莫迦ね、と笑ってほしかった。
 供えた花がただ揺れていた。

Fin.

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