Witch With Wit-*

2017.06.26

お父さんが阿漕なことをやってた、と聞かされたのはあたしが殺される、という瞬間だった。
「時間があったらジェーケーのキミを嬲って殺すところを動画に収めて、それを見て苦しみながら死んでもらうんだがねェ。
 残念、今頃はどっかに浮かんでるかなァ」
殺されるのはまぁ仕方ないかなぁ、と父がやっていたことを聞かされてあたしは思ってしまった。
ただ、これをにたにた笑いながら言ってきた、失敗した肉まんみたいなオッサンには内心、「あんただって人のことは言えなさそーなツラしてるじゃん」とツッコんでいた。……もちろん口に出すようなことはしなかったけど。
あたしが何も返さないでいると、ちっ、とつまらなさげに肩をすくめた肉まん(仮)が左右の玄人さんっぽい人達に「やれ」と顎で指示を出した。
あー、お母さんと妹どうしたかなー。この人たちもあたしまでで満足してくれないかなー、だいたい絶望的だけど。なんて思った瞬間、鈍い音がいくつかして、
さっきまであたしに銃口を向けてた、玄人さんのうちの一人の、筋骨隆々でスキンヘッドにグラサンのやつがあたしの肘を強く引っ張った。「来い」
──助けられたと気づいたのは、引きずり出されるようにしてその、コンクリ張りの部屋を出される頃で、肉まん(仮)や他の玄人さんは残らず床に伏していた。

その男はあたしを数時間連れ回した。追っ手っぽいのがちょいちょい現れてそれを撒きつつ、男は無線で誰かと話してるようだった。でっかいバイクの後ろに乗せられたり歩いたり地下鉄を使ったりまた歩いたりして、あたしはなんの変哲もない普通のマンションの一室に放り込まれた。
その間何も聞かなかった。……だって、同情でもないんだろうし。
しばらくここにいろ、あるものは使っていいと言われてうなずき、かりそめの生活が始まった。
マンションはあたしのために用意されたものじゃないらしく、男の仲間や知り合いっぽいのがたまにやって来た。だいたい最初の玄人さんと同じような恰好や身のこなしだったけど、たまに女の子やへらへらとした大学生みたいな恰好の兄ちゃん──余木と名乗った──も混じってた。
男はそこにいるときもあったし留守にするときもあった。二、三日後留守にしてるとき、渡されてた黒いスマホに男が掛けてきて、今から行く女と一緒に買い出しをしろと指示があった。

「着るものとか足りてないでしょ? 今日ならあたしと一緒なら平気だし」
現れた女の子は原宿系っていうのか、あたしより一個か二個年上っぽいけど肩までのツインテを緩くパーマ掛けてて、ピンクと白のパニエみたいなスカートやプラスチックの大ぶりのアクセで着飾った子だった。一瞬これと同じ恰好をさせられるのかと若干引いたが、連れて行かれたのはフツーのZARAとかそういう系のお店だった。
「え、あいつと何も話してないの? ウケるー」
クレープを食べながら彼女は言った。あたしはソフトクリームをおごってもらっていた。
「……だって、どうせなんかの仕事だろうし」
ふっ、と彼女は笑った。その時だけすごい大人みたいに。
「あんた、面白いね」
素質あるかもね、とつぶやいたような気がした。
なんのことかはわからなかったし、それでというわけじゃないけど、あたしは聞いてみた。
「ねえ、身を守るにはどうしたらいいんだろ」
彼女はあたしを大きな目でまじまじと見て、
「いい心がけ。……そーね、今回には間に合わないだろーけど機会があったら教えたげる」
『一緒なら平気』ってそういう意味か、と今更理解した。

次の日かその次の日あたりから妙にマンション周辺がきな臭くなった。なんでそう感じたのかって言われても説明できないけど。
男が留守の時インターフォンが鳴って、開けていいと言われていたので開けると、見覚えのある男が立っていた。
「余木さん、でしたっけ」
「──ここではそういうことにしとこうかな」
両手を開いた彼の笑顔、すごく嫌なものを感じてあたしは、上がって待たせて貰うというのを断った。
すぐに男が帰宅した。玄関と反対側のサッシから外を確かめて一言。
「見るな」
できるだけでいいが。
それを合図にしたように銃撃戦が始まった。
「悪いな」
ソファの間に引き倒されたあたしの目に、家具の下から飛び交う何かや乱入してきた人の脚、壊される家具やドアが見えた。
すぐに敵は全滅させられたらしく、許可を得て身を起こすと、用をなさなくなった玄関扉の場所に、代わりのように余木さんが立っていた。後ろの廊下に、女の子達。にやにや笑い。
「行くぞ」
男の声はバスルームの方からだった。ここに数日いて、一度も気づかなかった場所に空間が開いていた。──隠し扉。
あたしは身をひるがえした。

……という夢を見たんだ。ヒュー!

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