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小さな花を抱いて

 小さい頃、ブリジットは指輪を持っていた。安っぽいおもちゃみたいな、ピンクの花が付いた小さな指輪。
 傭兵隊に保護されて、着の身着のままの少女は、それでも指輪を大事に握りしめていた。お父さんとお母さんが買ってくれたものだ。
 拾われた、と言ってもまだ十にもならない子供、傭兵隊が連れ回すわけではない。その頃彼らが本拠地にしていた、エーデルシュタインという街にブリジットは連れてこられた。
「それ、失くさないようにしなけりゃな」
 だいたいこんなことに気づくのは参謀だ。彼女はどこで調達してきたのか、金色の丈夫な、しかし子供にもあまり重くなさそうな鎖を出してきた。
 首に掛けてもらって、指輪を通す。ブリジットは大事に、ワンピースの下になるようにそれを隠した。
 そうすると気にくわないのは彼女になついていた、同じような境遇でやや先輩の、レナである。

……一戦交えた後、ブリジットは当面の保護者である隊長の手で、川沿いの木に縛り付けられた。
「いいか、自由になりたいと思ったらちゃんとレナに謝って解いてもらうんだぞ」
 レナもレナで、ブリジットの目の前の川岸で洗濯をさせられる羽目になった。
 
 日は傾く。
「……」
「……指輪、見る?」
 先に折れた、というか沈黙に我慢できなかったのはブリジットの方だった。
「もういいもん」
「……かわいいよ?」
「……」
 
 指輪は今はない。傭兵の道を選ぶ時、ブリジットはエーデルシュタインに墓を一つ作ってもらった。
 その中には誰もいない。ただ、父と母の、そして自分の少女時代の形見として、あの指輪を埋めた。
 金鎖は、レナが引き取った。
 それからずいぶん長いような、はっとするほど短いような時間、ブリジットはレナと一緒に働いて、いつしか名コンビと言われるようになった。

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